2020-05-02

細海 魚 ニューアルバム「LOST」5月13日リリース決定!

LOST / SAKANA HOSOMI

『LOST』は細海魚6年ぶり3枚目のソロ名義によるアルバムで自身のプライベートレーベル<DO NOTHING>からのリリース。ジャケットの何処だか判らない漠とした風景は<崎無異(サキムイ)>という場所で、知床半島から国後島へ向けて撮ったスナップショットだと言う。やわらかいエレクトリックギターの音色を中心に据えたこのアルバムがどこかロードムービー風に聴こえるのはこのジャケットによる印象がそう思わせるのかも知れない。トレモロとリヴァーブの効いたギターにウーリッツァーが絡む、言わば細海魚を象徴するサウンドM1「HANGOVER」によって本作の幕が開く。オルガン風の鍵盤楽器による牧歌的なM2「Y’S FUNMACHINE」は、裏庭の小さな祭壇に捧げられた野花やおもちゃの首飾りを想像させる。つづくM3「BLAKISTON LINE」は本作のハイライトだろうか。津軽海峡を挟んで存在する動植物相の分布境界線の名称がタイトルになっている。ハンドベル・デュオBELLYLOVEの奏でる小さな鐘の音が無垢な聖性を表現している。M5「ROUTE20」から後半では細海の成熟した感性が垣間見える。レイ・ブラッドベリの短編小説「発電所」に着想を得たと言うM7「BLUE HUM」、2本のギターの背後で蒸気のような音をたてるオルガンが物語に登場するリボンのような<ハミング>なのかも知れない。表題曲のM8「LOST」は懐かしいリズムボックスの音色に導かれ真夜中の国道を彷徨う音楽家の魂のよう。エレクトリックギターのアルペジオが降り積むM9「SNOW」、つづくラストのM10「LITTLE STAR」は静かながらロック的イディオムを奏でるウーリッツァーが自らをあやすように、しかしあくまで動的にアルバムを締めくくる。

同時期発売の『MORI AND GINGA』同様、本作も2017年~’20年にかけて録り貯められた曲で構成されている。どちらも、ソロ・ライブでの演奏から生まれた曲であると語るように、この頃から始めたひとりによるライブ活動が細海の音楽生活にとって大きな出来事であったことがうかがえる。

あえて明確なテーマを掲げるわけではない表現スタイルはこの2作においても同じだが、個々の作品に耳を澄ませるとき私たちは自ずと沈黙する。そこに見出したいのは癒しの言葉などではなく、沈黙だけがもつ少しひんやりとした安らかさではないだろうか。安らかさは物理的に体感できるものではなく時間とともに現れては消え、保存もできない。しかし細海魚の音楽をつうじてほんの束の間でもそんな沈黙を聴き取ることができたら、私たちの住む世界にはまだまだ幸福が存在するのだということの証左であろう。

 

外間隆史 [未明編集室/焚火社]






DO NOTHING
dn4
¥2,500 税込
https://donothing.stores.jp/
https://sakanahosomi.jimdofree.com/

RELEASE DATE : 2020/5/13

TRACK LIST : 

1 HANGOVER
2 Y'S FUN MACHINE
3 BLAKISTON LINE
4 PARK
5 ROUTE20
6 CELLOPHANE
7 BLUE HUM
8 LOST
9 SNOW
10 LITTLE STAR


Music by Sakana Hosomi(All Instruments)

With :
AI and ERI (HANDBELL DUO BELLYLOVE) : Track 3 "BLAKISTON LINE"






細海 魚 ニューアルバム「MORI AND GINGA」6月1日リリース決定!


MORI AND GINGA / SAKANA HOSOMI


『MORI AND GINGA』は細海魚6年ぶり4枚目のソロ名義によるアルバムである。ジャケットの特徴的な線画は現代画家・山口一郎によるもの。これに呼応するかのように本作における細海の音楽は現代美術のようだ。誰も訪れることのないギャラリーに絵は一枚もなく、空っぽの額縁から微かに音楽が聴こえてくる――『MORI AND GINGA』はそんな作品だ。冒頭のM1「MACHIBOUKE」でガットギターが不器用そうに爪弾かれると、一聴してその和音が細海魚のものだと判る。<雪解け>を意味するM3「THAW」の美しいアルペジオ、目映いM4「SUNNY RAIN」からつづくM5「REMBRANDT KOUSEN」まで細海は多くを語ろうとしない。ようやく、ハンドベル・デュオBELLYLOVEによる美しい鐘の音が加わるM6「USUYUKISOU」で、音楽家は初めて私たちに何かを語りかけてくる。しかしあくまで微かな囁き声で……。

このM6を除き全ての楽器を細海が演奏している。ごく小さな会場で行なっているたったひとりのライブ活動での演奏をつうじて出来上がった曲をあつめ、2017年~’20年にかけてこつこつと細海の自宅スタジオで録り貯められていった。丁寧に紡がれた音は一貫してストイックで、あくまで平坦な印象に設えてある。しかしこれこそが、極度に無口な細海の発する最大限の詩なのだと言える。中でもM7「BIRTHDAY」では、愛する者への想いがこの平坦さによって逆説的に際立ってくる。それは、明日も変わらない日常でありますようにと祈りを込めて丹念に磨くテーブルの明度に似ているかも知れない。ラストはアルバムタイトルにもなっているM8「MORI AND GINGA #2」。ここに「#2」とあるのは、これに先立って同名の「MORI AND GINGA」を細海が参加しているWEBサロン『焚火社(takibisha.com)』で発表しているからである。

私たちは空っぽの額縁の前で耳を澄ませ目を閉じる。まぶたの裏側で視えた絵こそが、あなただけの『MORI AND GINGA』であり、ひとりの寡黙な音楽家からの手紙だ。

 

外間隆史 [未明編集室/焚火社]






PURE HEART LABEL
APHL-0016
¥2,500 税込
http://pureheartlabel.com/

RELEASE DATE : 2020/6/1

TRACK LIST : 

1 MACHIBOUKE
2 BLOW
3 THAW
4 SUNNY RAIN
5 REMBRANDT KOUSEN
6 USUYUKISOU
7 BIRTHDAY
8 MORI AND GINGA #2


Music by Sakana Hosomi(All Instruments)

With :
AI and ERI (HANDBELL DUO BELLYLOVE) : Track 6 "USUYUKISOU"

Drawing : ICHIRO YAMAGUCHI